「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」J.K.ローリング2007年08月07日 13時01分47秒

「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」 J.K.ローリング
「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」 J.K.ローリング
HARRY POTTER AND THE PRISONER OF AZKABAN
by J. K. Rowling
(静山社)

夏休みにダーズリー家で禁止されている魔法を使ってしまったハリーだが罰を受けることもなく3年目のホグワーツへ向う急行に乗った。途中で吸魂鬼に襲われたり、今年のホグワーツは様子がおかしい。アズカバンの凶悪な囚人がハリーを狙っているらしいというのだった。

劇場ではこの夏5作目が公開。遅れること3年の原作読了。そういえば「指輪物語」もそうだった(笑)。
映画は公開当時に観ているが、現在公開中の「不死鳥の騎士団」は先にも述べたとおり非常に面白かった。本作の色合いとよく似ているのが3作目の「アズカバンの囚人」。現在まで公開の5本の中で一番好きなのが「アズカバンの囚人」なのだが、今回ようやく原作が追いついたところなのだ。

成長著しいハリーたち。ましてやダニエル・ラドクリフたちが子供の顔から脱出してきた最初の作品。内容的にもダークさが増し、ハリーの過去の謎が一歩大きく明かされる作品でもある。13歳にしてはちょっと厳しい試練の始まりだ。

以下、内容に触れていますのでご了承ください。

本作で大切な人物が登場するが、言うまでもなく‘アズカバンの囚人’であるシリウス・ブラックがその人。実際にハリーの両親を殺したとされていてその際に多くの一般の人間を巻き添えにして殺した罪で収監される。生き残ったハリーを殺すためにアズカバンを脱走してホグワーツにやってくるという噂だった。
しかし、実際にはブラックはハリーの父の親友でハリーの名付け親にして後見人。親しみの持てる家族のいなかったハリーにとって唯一の家族のような人物となるわけである。
それからもう一人。ハリーの味方になってくれる闇の魔術に対する防衛術のルーピン先生。彼もまたハリーの父の親友の一人。ハリーの父親の死の謎の解明とハリーの危険に身を呈して助けてくれる。
彼らの身には秘密があってそう簡単にハリーの側にはいられないのだが、ハリーの心の支えとなる人たちだ。このふたりをゲイリー・オールドマンとデヴィッド・シューリスにした製作側のセンスに大拍手!素晴らしい!

彼らの存在が中心となって物語が展開されるのだが、学校生活もクイディッチの試合や新しい占いの授業、新しい魔法生物、新しい街に新しい魔法の道具と楽しいディティールも盛りだくさん。
それのすべてがちゃーんとストーリーに重要な役割を果たしていて緻密な構成になっているのは見事。なかでもハーマイオニーのある秘密がハリーの成長に欠かせない一場面につながるくだりはよく出来ていて感心させられた。

映画は監督がクリス・コロンバスの手を離れた最初の作品でアルフォンソ・キュアロンの作となる。このディティールを余すことなく生かされた脚本が素晴らしいが原作と前2作の雰囲気を崩すことなく少し成長してかつダークな展開を遜色なく仕上げた監督の成果は素晴らしい。
作を重ねるごとに2時間強で収めるには内容が膨大になりつつある原作はこの「アズカバンの囚人」までが限界のよう。本作で省かれたのは最初に教科書類を買うダイアゴン横丁の部分と占いのトレローニ先生の授業の細部とクイディッチの試合の分量くらい。
他に違いを感じたのはスネイプ先生のキャラクター。原作ではとことんハリーに敵意むき出しだけど映画のアラン・リックマン演じるスネイプはちょっとだけハリーに好意的になっている。ロンに対する態度は、授業中おしゃべりしていてスネイプ先生に後頭部をひっぱたかれるシーンなど、映画では笑える部分としてお馴染みになりつつあるが、今回はネヴィルがその標的。

前作の「秘密の部屋」で本人たちは気がついてなさそうでも、お互いを意識しはじめていたロンとハーマイオニーは、今回は大喧嘩の連発。次の段階に行ったとみえる。次の「炎のゴブレット」に向けて順調な感じ♪

ストーリーもキャラクターもハリーたちの成長の起点となる「アズカバンの囚人」はとても魅力的。キャスティングも見事で原作も映画も大満足である。