「沖で待つ」 絲山秋子2007年10月18日 23時21分05秒

「沖で待つ」 絲山秋子
「沖で待つ」 絲山秋子
(文藝春秋)

バブル期に企業で組織の一員としてバリバリ働いた経験のある女が主人公。女の目で見た、女が働くこと、働く意味、働く仲間との関係の物語。収録作は「勤労感謝の日」「沖で待つ」の2編。

「勤労感謝の日」
セクハラ上司の常軌を逸した行動にブチぎれて会社を辞める破目になった女。“勤労感謝の日”に無職の彼女が義理で受けたお見合い。現れた男は「仕事が趣味」だとぬかす、一流企業勤めのバカ男。好きだとか自分では言っていても、はたしてホントに“仕事ができる”男なのか甚だ怪しい。
“勤労感謝の日”の無職の女の一日。「仕事が趣味」だという男と会い、「仕事仲間」だった女と話し、気分の悪い日に立ち寄る飲み屋に癒されて、心から感謝の言葉を口にする。
 - ふと、これって勤労感謝だろうかと思った。 -
無職の女が感じた「勤労感謝の日」。11月23日だっけ。危うく自分もそうなるかと思ったよ(笑)。
そこで感じるか、そうきたか、なんかいいなあ~。
ちょっと可笑しくて、いや、ちっとも可笑しくない。シビアで不愉快な出来事を払拭するために残りの時間を費やした彼女。意識したわけじゃないのに“仕事”に纏わる人に会い話をし、その1日の終わりに感じた感謝の念。それが無職の女!ってところがいいよねえ~。うん、実にいい。

「沖で待つ」
同期入社の男と交わした変わった約束。自分がすることはないだろうと思っていたのに、果たすのは自分の役目になった。冷や汗をかくほどの思いをして果たしたのに、彼は自分で台無しにしてくれる。彼らしいっつーか・・・。
「沖で待つ」は彼の残したあるものの中の一言。なんとなくそんな気はしたんだけど、その一文を読んだ時になんとも言えず、じんとくるものがあった。
 - 仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。
    同期ってそんなものじゃないかと思ってました。 -
これもすごいな。新卒で入った会社は1年で辞めてしまい、前職の会社には一人中途入社だったから“同期”という存在がとても羨ましかった。そうかもしれないな。

うーん、さりげないんだけど、なんだか心の残る言葉。そんなものを自分も残せたらと思ったりする。別に感動的な文章を書きたいだなんてたいそうな事を考えてるわけじゃなくて~。何でもいいんだけど。誰かにとって、ちょっとひっかかるだけでもいいんだけど。ふと、思い出してもらえるような一文が自分の書いたものの中に残せていたらいいな~。なんて。


今の私が読むにはちょっと遅かったね。もう少し前に読んでたら、この本に少し気持ちを楽にしてもらえてたかもしれない。
でも今の私、この時期に彼女の“女と仕事”の文章に出会えたのはちょっとした事件だった。大感動っていうんじゃないんだけどなんかほっこりどこかに残ってる不思議な感じ。

読むのが遅い私でも流石にこれは往復4時間の新幹線の中で読み終えてさらに時間が余った。さらさら読める上に面白く、ちょっとどきっとさせられて。今まで読んだ彼女の作品の中で一番面白かった。
絲山秋子は「スモール・トーク」で興味を持ち、「イッツ・オンリー・トーク」で本をぶん投げたくなって、「ニート」でさらに嫌悪感に鼻で笑ってしまった。私はどうも読む順番を間違えたらしい。この「沖で待つ」がこんな後になってしまった。芥川賞受賞作という帯の誘い文句のとおりに誘われてしまえばよかった。
絲山秋子の持つ二つの顔。なんでこうも違うかね。働く女の考え方、感じ方の表現の仕方はとても素直で水のようにさらさらと心地よく読めるのに。片や・・・もういいや。こっちのタイプは私にはどうにも受け容れ難い。嘔吐感まで感じて全身で拒否してた。
私って・・・超ノーマルな女だったのね・・・なんて実感したりして~。(爆)