007/慰めの報酬2009年02月01日 23時50分32秒

007/慰めの報酬(2008)
007/慰めの報酬 QUANTUM OF SOLACE
2008 英 監督:マーク・フォースター
ダニエル・クレイグ、オルガ・キュリレンコ、マチュー・アマルリック、ジュディ・デンチ、ジャンカルロ・ジャンニーニ、ジェフリー・ライト

ヴェスパーを操っていたミスター・ホワイトを確保して護送中に襲われながらもMの元へ辿りついいたボンド。尋問を始めたのも束の間、味方の裏切りで事態は急変。ミスター・ホワイトがほのめかした組織の手がかりを追ってボンドは復讐を胸のうちに秘めて次の任務に就く。

さて先に言っておくと、「カジノ・ロワイヤル」よりはるかに好きです。まぁ、私の場合、前作のヴェスパー・リンド=エヴァ・グリーンが好きじゃないのが大きいんですけどね。エヴァ・グリーンはもともと好きじゃなかったんだけど、007としてもヴェスパーの存在が好きじゃないのがとにかく大きいんだと思う。私はボンドにとって結婚するほどの大きな存在だった女は「女王陛下の007」のテレサで十分だったと思っているんです。私の勝手なんですが、配役が変わろうと、007はシリーズでひとつながりだと思って観ているので、ボンドには今更、初めて愛した女だなんて設定のストーリーは望んでいなかったのですよねぇ。だから、ダニエル・クレイグのボンドは大歓迎だし、「カジノ・ロワイヤル」も映画としては悪くないと思うんだけど・・・なんだけど、ストーリーは大嫌いだったりするんです。

で、その続編的な今回の「慰めの報酬」。一部には失笑をかっているこの邦題。"QUANTUM OF SOLACE"を直訳すると『慰めの分け前』。「慰めの報酬」もそんなに変わらないと思うけど、なんかおセンチな感じがするから?私的には特に感じるところはない。
まず第一に、今回のボンドガールっちゅうか(笑)、ヒロインのカミーユ=オルガ・キュリレンコがGOOD。前作のヴェスパー・リンド=エヴァ・グリーンが大嫌いなのでこの差は大きい(笑)。ボンドとラブラブにならないところが益々宜しい♪
敵役のマチュー・アマルリックも爬虫類的な不気味さが出ていてよろしいんではないかと。ボンド映画の敵役の情けない死に様は意外とお約束。前作のル・シッフル=マッツ・ミケルセンはあまりにもあまり過ぎな気もしたんだけど(笑)・・・今回はなんだか納得できるのはなぜだろう?マチューがもともと情けなさげな線の細いタイプだからかなぁ。
ストーリーは続編的な作りで、ボンドが復讐と任務の間で葛藤する・・・らしい(笑)。で、同じ境遇のカミーユとの共鳴?により行動を共にするボンド。これが芯にあってあとはアクションとボンドのディティールを詰め込めばボンド映画は完成する。
オープニングは正直言って好きじゃない。何がって今回の主題歌がまず嫌い。画的には非常にボンドらしいかもしれないんだけど、ここは「カジノ・ロワイヤル」のトランプをモチーフにしたあのオープニングの方が断然好き。
冒頭のカーチェイスですが、アルファロメオの鉄兜面が3台でアストン・マーチンを追うだけで大満足なんですけど~。続くシエナでの追跡アクションは予告でも使用され、前作の高所アクションシーンに対抗すべく用意されたんだろうなと思われる。ま、よろしいんでは?
シエナに始まり、ハイチ、ブレゲンツ、ボリビアと舞台は上々。
ストーリーは先に述べたようにカミーユと共鳴しながらボンド自身の葛藤を中心とした流れでまあこんなものでしょう。
ラスト、ロシアでヴェスパーに一応、心の決着をつけたと思われる雰囲気を漂わせて、ドミニク・グリーン=マチューの陰謀は阻止しつつ組織の謎ははっきり解明されないまま・・・“James Bond will return”。

ふっ。素直に次作が楽しみである。

「チャイルド44」 トム・ロブ・スミス2009年02月11日 20時07分05秒

「チャイルド44」 トム・ロブ・スミス
「チャイルド44」 トム・ロブ・スミス
CHILD 44
by Tom Rob Smith
(新潮文庫)

1950年代スターリン恐怖政治下のソ連。モスクワの国家保安省のエリート捜査官レオ・デミドフは死亡した息子は殺されたのだと主張する部下の家族に、「殺人ではなく事故だった」と説得するよう命じられる。省内の確執と陰謀によって地方の民警に移送されたレオはその地で再び子供の死体を目にする。適当な容疑者が逮捕されたが、彼の脳裏にモスクワの1件が蘇る。

これも2008年度このミス海外版で1位の作品。書店でも積まれているし、図書館でも人気が高く、30人以上待ち。半年もすれば読めるかと思っていたら友人の間でも評判で、思いがけなく待たずに読めることに。(ありがと~う!)
上下巻で700ページ強の長編だが、不思議に引き込まれるようで、私でも1週間ちょいで読めてしまった。 なので早い人は2、3日で読めます。訳がミステリー翻訳で馴染みの田口俊樹なのでなおさら非常に読みやすいのかも。

冒頭から上巻の終盤近くまではいつ事件の核心場面になるのか?と思いながらも、舞台となる独裁国家だった恐怖政治下のソ連の国家、国内の様子がこれでもかってくらいの描写が凄まじい。エリート捜査官の主人公たちも貧しい市民の暮らしが明日はわが身。同僚を告発してもわが身を守らなければならない状態。実際、主人公は部下の恨みをかって処刑寸前で地方に移送される。
サスペンス物語はここからが本番で、下巻の展開はめまぐるしく逃亡者さながらの主人公と犯人を追いかけてどんどんスピードが増す。序盤の情景が最後にそう繋がるのか~と、練られた構成が巧みだ。
読み応えのあるサスペンスに独裁国家、時代に絡めた人間の信頼関係に訴えるシリアスなドラマだった。

その歴史にあまり明るくないスターリンの時代と国家。凍えるような寒さの冬の描写が「ゴーリキー・パーク」を思わせた。貧しい市民の暮らしは想像を絶する厳しさで、はじめて知る内情だった。雲泥の差があるエリートと反体制派と目された人々の暮らし。国家が第一で個人は二の次。
その中で共通して描かれるのがどの家族にも“兄弟”がいること。最初に登場する貧しい兄弟に始まり、モスクワの最初の遺体は雪遊びをしていた兄弟の弟。主人公がスパイ容疑で追う獣医には二人の娘、主人公を敵視する部下は自分の兄を告発し、捜査に手を貸す民警の署長にも二人の息子がいる。逃亡の先々で手を借りる田舎の家族たちにも複数の子供たちが。そして犯人にも・・・。
時に温かく、時に厳しく。最初から最後まで様々な場面に織り込まれた数々の兄弟たちの姿がどれも鮮やかだ。この“兄弟”たちに込められたものは何なのだろう。
サスペンスとして面白く読めたのは確かなんだけど、ヒューマンドラマ部分に冷静になる。盛り上がって楽しく読めるエンタメとはちょっと違うなというのが正直な感想。

さて、各国で人気を博した本作は当然ながら映画化権が売れている。しかもリドリー・スコットですと。となると主人公はラッセル・クロウ!と考えるのは安直過ぎる?(笑)
主人公は“ハンサム”なロシア人。私が思い描いて読んだのはニコライ・コスター・ワルドウなんだけどな。ちょっと若いかなって気もするが、主人公は30代なんだよね。
敵視する部下、微妙な関係の妻、民警の署長、そして犯人。と、いい役者が揃ったら映画として十分成功しそう。リドリー・スコットに期待します。