「説得」 ジェーン・オースティン2008年07月05日 17時45分56秒

「説得」 ジェーン・オースティン
「説得」 ジェーン・オースティン
PERSUASION
by Jane Austen
(キネマ旬報社)

アンはかつて、海軍将校のフレデリック・ウェントワースと婚約したものの、父の反対に遭い、結局、母親代わりのラッセル夫人に説得され、結婚を取りやめてしまう。それから8年の月日を経て、二人は再会する。

ジェーン・オースティンは映画で知った作家。最初はグィネス・パルトロウの「エマ」、次にエマ・トンプソン、ケイト・ウィンスレットの「いつか晴れた日に」、そしてコリン・ファースがダーシーを演じた「高慢と偏見」。
この「高慢と偏見」がきっかけで原作を読んだ。
19世紀初頭の英国の貴族社会。なんじゃこりゃな、現代のわれわれには理解し難い法や習慣。時代も国も違えども感心するほどの生き方の違いにはただただ唖然。
この国でそんな生き方しか出来ない女であれば、こんな話が生まれてもおかしくないか、と、至極納得のいくオースティン文学は、読んでて楽しい。が、続けて読む気にはならず、3年ほど経ったろうか。
昨年「プライドと偏見」が公開され、今年は「つぐない」、「ジェーン・オースティンの読書会」、TVで「ジェイン・エア」「説得」「分別と多感」と、続々と英国女流文学作品の映像化が並び、再び興味が。中でも「説得」が非常によろしくてー。
何が?ウェントワース大佐のルパート・ペンリー・ジョーンズがっ!

やっぱりね、私のことだからこんなもんなんですが(笑)。
見た目にも麗しいウェントワース大佐はコリン・ファースのダーシーに負けない仏頂面。8年前にふられたアンに再会して、不機嫌丸出し。だけどもー・・・。
アンはアンで振ったもののずっと彼のことを忘れられず、再会して彼の姿を見る度に苦しいやら悲しいやら、でも嬉しいやら。
オースティンのお約束で最後は大団円だから安心して観てられるんだけど、この二人のじれじれぶりが、「高慢と偏見」のベスとダーシー以上!「こいつら、何やっとんじゃい・・・」と呆れるやら、笑えるやら、楽しい1時間半だった(笑)。
で、原作が読みたくなり、図書館へ。329ページのわりに一週間足らずで、すらすら読めた。私が読んだのはキネマ旬報社版。他に河出世界文学全集「説きふせられて」、岩波文庫「説きふせられて」もあり。

原作はアンの性格がさらに深く描かれていて、確かに人間として優れ、機知に富み、思いやりに溢れ、貴族の家の出にしては慎ましく・・・なんだけど、人の心を読むのに長けているがために、ちょっとそこまで考えるなよ~!と、突っ込みをいれたくなるところも。その点は、ひたすらじれじれするところに演出のポイントを置いたようなTV版のほうが好ましく感じた。
ウェントワース大佐もこの人がまた、感情の吐き出し方がへたくそな男で、いろんなことを考えすぎて頭が爆発寸前。心中葛藤し過ぎで行動がちぐはぐ。でも、そこが可愛いのかも?(笑)
いや、可愛く見えるのはルパートの功績が大きい。95年製作のTVMではシアラン・ハインズだったそうで。それも観たいような・・・観たくないような・・・。

基本が古典文学なので映像化されても大きく違うところはない。変えちゃったらファンから大ブーイングが起こること必至だから、製作する側もある意味大変だよね。
なので、観た映像を当てはめて読んだのだけど、敢えて違うとすれば最後のほうかな。TV版のアンは何故そんなに走り回っているのだ?と私は笑い転げていたんだけどー。ウェントワースとのすれ違いに焦りまくって走る走る。演じるサリー・ホーキンスが気の毒なくらい。この場面は原作では1~2日分のところなのに数10分でまとめようとしてるのよね。なぜ?ふたりがやっと顔を合わせたのにアンが息切らしてるって・・・。まあ、その後のシーンは悪くないのでいいんだけどー♪

原作に戻るが、やはり文章を読ませるという意味で映像化が適わないなと思った部分。それは、ウェントワース大佐がアンに最後に思いの丈を綴った手紙。
勿論、映像でもここは大きな見所なんだけども、やっぱり手紙は文面があって意味がある。モノローグであっという間に流れてしまう映像ではなく、何度も文面に戻って読み直せるのに勝るものはない。
この手紙が、ぐぐぐっとくるのだ。女なら一度はこんな手紙もらってみたいねぇ。
この手紙。ここに引用したいとも思ったが、余りに熱情のこもったもので、さすがに恥ずかしいかもと思って止めました(笑)。この手紙の部分で、私は「説得」は愛蔵版として手元に置きたくなりましたもん。機会があったら一度呼んでみてくださいまし。
ただし、今時、こんな手紙が世の女全般にうけるなんてこたないでしょな。ベタ甘ラブストーリー好き限定。


ちなみに、ジェーン・オースティンは古典作家としての評価が高いが、私的にはそうかなぁ~、と。いやね、偉そうな意味ではなく、古典文学にしてはかなり大衆性の強い、むしろラブコメディみたいだと思うわけで。
Wikipediaの『ジェーン・オースティン』での作家評として“一般の読者にとってもオースティンの小説は読むことが純粋に楽しい数少ない古典の一つである。”とあるが、まさにそれ!

殺伐としたご時世。たまにはこんなものを読んでほっとするのも良いのでは?

ルパート・ペンリー=ジョーンズ2008年07月13日 15時42分42秒

説得(2007)
RUPERT PENRY-JONES   1970/9/22 UK

奥が深く層が厚い英国俳優の中からの、またひとりである。「説得」のウェントワース大佐がなんとも印象深くて、ややハマリ気味の昨今。しかしながら、ルパート祭りをやるほど観られる作品がないのが残念。

最初に記憶したのはケイト・ブランシェット主演の「シャーロット・グレイ」。彼女はルパート演じる恋人が行方不明になったためにフランスへ行き、レジスタンスに身を費やすことになる。序盤と終盤だけの出演なのだが、行方不明になる恋人という設定とともに儚げでその美しいルックスがとても印象的だった。

間をおかずに「サハラに舞う羽根」で、ヒース・レッジャーを囲む仲間の中にマイケル・シーン、クリス・マーシャルとともにいた。大英帝国の軍服姿が凛々しく、その美しさはすぐに「シャーロット・グレイ」の彼だとわかった。

ところが、実はもっと前に観ていたことが判明。「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」のエミリー・ワトソンたちの弟。「スティル・クレイジー」のビル・ナイの若い頃(笑)。この2本は再見すればわかるだろうが、「ベント」にも出ていたそうで、・・・役名は“Guard on road”。端役だろうな。この映画、意外にいろんな人が出ているのだけれど、確認のために再見するには、ちょっとしんどい。
さらに「黒馬物語」にも出ていたらしい。これが映画デビューかもしれないが役名は“Wild-looking Young Man”。これはもしかしたら探せるかも。

他に観られるものがないかと探して見つけたのが、「ヴァーチャル・セクシュアリティ」。これが掘り出し物だった!
主人公のローラ・フレイザーが作り出した理想の男。つまり“ヴァーチャル”。ラブコメディでお目にかかれるとは思ってなかったので嬉しい驚き。美形の彼らしいキャスティングかと。彼が作られる過程が、ぷっくりした唇、青い目にブロンド・・・。私が嵌る要因を満たしていて笑えた。しかし、ひと捻りあるストーリーで、彼の意外な一面を見た。なかなか楽しいので興味のある方は是非♪

久しぶりに見たのは「マッチポイント」。ほんのワンシーンだったけど、ジョナサン・リース・マイヤーズのプロ時代の友人のテニスプレイヤー。プレイするシーンもなかったけど、いかにも上流英国人みたいな雰囲気十分。

しばらく姿を見かけないのだが、基本的に本国でTVの仕事をするのが多いよう。TVMにレギュラーのドラマもあるみたい。
で、運良く英国女流文学シリーズが日本にもお目見え。「ジェイン・エア」「分別と多感」と一緒に放映された「説得」。折りしも映画「つぐない」が公開され、続いて「ジェーン・オースティンの読書会」なんて米国ベストセラーの映画化も公開。ちょっと久しぶりのオースティン旋風の流れでみた「説得」のウェントワース大佐がルパートだったわけで、これは必然(?)。前の本の記事『説得』の時も書いたが、笑わない、仏頂面の彼が実に魅力的。オースティン特有のじれじれ感がまた効果抜群だし。
「サハラ・・・」の時もキマってたが、軍服姿というかコスチュームものは、基本、端整なルックスなので似合う。オースティン文学に起用されたのも納得。お陰さまで堪能しました♪

今のスタンスで本国を中心に今までどおり、コンスタントに活躍していくのだと思う。最近は英国のドラマも数多く観られるようになったけど、今後もまだまだたくさんあるTVMが観られないかなぁと思うばかりです。
本当に底知れぬ広がりを感じる英国人俳優。あまりハリウッド作品でその本質を損なって欲しくはないけれど、いい役があればその姿はもっと見られたらいいなと思う。その辺が難しいところだよね~。

エリザベス・シュー2008年07月22日 20時21分18秒

インビジブル(2000)
ELISABETH SHUE   1963/10/6 USA

「バック・トゥー・ザ・フューチャーPART2」と「PART3」のマイケル・J・フォックスの可愛いガールフレンドをはじめ、80年代半ばから90年代に渡って、メグ・ライアン同様、親しみやすいヒロインを演じてきた。“ロマコメの女王”の座はメグが君臨してきたが、可愛らしさだったらエリザベスのほうが負けてなかった気がするのだけど。

最初に見たのは「バック・トゥー・ザ・フューチャー」シリーズよりもっと前。「ベスト・キッド」のヒロインでこれが彼女の映画デビューだから、初期の作品はかなり恵まれている。トム・クルーズの「カクテル」のヒロインも彼女。当時人気のファミリー冒険映画の「ベビーシッター・アドベンチャー」なんてのもあり。(ちなみにこの作品で彼女が子守をしたのがアンソニー・ラップ♪)
売れ筋路線を行く予感がしたのだけど、やっぱり当時の一線級のヒロインは軒並みメグ・ライアンに流れたのか、ヒロイン役は「愛が微笑む時」くらいで、「ソープディッシュ」「あなたの恋にリフレイン」など傍役に回ることが多くなる。

そしてそのおかげともいえるかもしれないが、「蒼い記憶」「トリガーエフェクト」など早くも暗い作品や汚れ役に挑戦し始める。そして何より彼女の印象を変える決定的な作品に巡りあう。いうまでもなく「リービング・ラスベガス」である。それまでの暗い作品は見方によってはB級になりかねないものばかりだが、この1本に繋がる何かが彼女の中にあったのかもしれない。
幾つかの映画賞で主演女優賞を受賞。アカデミー賞、ゴールデングローブ賞にもノミネートされ、彼女の演技が大いに評価された。
酒に溺れるニコラス・ケイジを捨て身で支える売春婦のエリザベス。今までの可愛らしい彼女にしてみればびっくり!の大胆演技だ。
正直、私はこの「リービング・ラスベガス」が好きにはなれないのだけど~、彼女のキャリアとしてはこれ以上ない転機になったのは間違いない。

映画賞に関わると魅力的な脚本が集まってくるのは事実。ふたたびやってきたヒロイン役は「セイント」。主演はヴァル・キルマー。この作品、評価は微妙かもしれないが、私は大好き!変装が得意な泥棒が主人公のサスペンスであり、ファンタジーっぽくもあり、ロマンスも。このヒロインのエリザベスはとってもチャーミングだった。こういうキラキラした役は女優にとって必要だと思う。彼女にはそれだけの魅力的なものを持っているのだし、それを活かせる作品があって然るべきだから。

その後はこんなヒロイン役と汚れ役と緩急つけて作品の幅が広がっていく。文芸作品としては異色な「従妹ベット」、ウッディ・アレンの「地球は女で回っている」。とうとうポール・バーホーヴェンの「インビジブル」で透明人間のケヴィン・ベーコンに襲われる!(笑)。
ちょっと格調高めかと思えば、次はちょっとえっちい作品を選んだりして、成功しているかどうかはやや怪しいのだが(笑)、可愛い系にしては、いろんなタイプの作品に挑戦している面白い女優になってきた感がある。
何本か彼女の意外な大胆さが見られるのだが、ちょっとコメディな「従妹ベット」や(特にラストは必見♪)、妖艶さを前面に出した「パルメット」なんて強烈。「リービング・ラスベガス」で何かが吹っ切れたのか?エリザベス!
でも、これを武器にしているというのでもなく、彼女が楽しんで演じているようで、ある意味余裕ができたのかな~と思えなくもない。
女の私が観て、彼女のえっちさはどこかお茶目でキュート。なんだか憎めない。こういうのって男性には結構くるんじゃないのか?(・・・何がじゃ!)

近年は年齢のせいもあるだろうが、落ち着いてきたのか母親っぽい役で登場。たまたま共演の子役がダコタ・ファニングで続く「ハイド・アンド・シーク」と「夢駆ける馬ドリーマー」。後者はしっかり彼女の母親役。しかしながら彼女の可愛らしさは変わらず印象は昔のまま。
同じ母親役でも微妙に難しさのある「レオポルド・ブルームへの手紙」で、私は彼女の女優としての巧さを非常に感じた。こんな作品が出来るなら、安心して楽しい役、面白い役と冒険してもらってもいいような気がするっ。

演技の巧さは勿論必要なんだろうけど、映画女優たるものやっぱり可愛らしさも必要だ~。