「闇の左手」 アーシュラ・K・ル・グィン2008年08月28日 21時00分37秒

「闇の左手」 アーシュラ・K・ル・グィン
「闇の左手」 アーシュラ・K・ル・グィン
THE LEFT HAND OF DARKNESS
by Ursula K.Le Guin
(ハヤカワ文庫)

惑星連合エクーメンから“冬”の惑星ゲセンに、外交関係を締結すべく、使節として派遣されたゲンリー・アイ。この惑星で彼は、遺伝実験の結果生まれた、両性具有の特異な社会を形成している人類の末裔と対峙する。しかし、文化の壁に阻まれ交渉は進まず、やがて彼は逮捕・投獄されてしまう…。そんな彼に一人のゲセン人が手を差し延べる。

SFを読むのはいつ以来だろう。ファンタジーも含めるなら「指輪物語」以来か。「ジェイン・オースティンの読書会」でグリッグがジョスリンに読んで欲しいと差し出した1冊がこれ。ジョスリンは最初は貰ったままほったらかしだったものの、手にしたら 徹夜で数冊まとめて全部読んでしまった。
もともと読書好きの人間が、夢中になって読んでしまうなんてどんな?
私も久しぶりに手にしてみたというわけだ。

ル・グィン。あまり馴染みのない名前だったが、代表作を知って、おお、なるほど。「ゲド戦記」シリーズの作者なのだね。「闇の左手」は「ゲド戦記」とはまた別のシリーズ。
SFやファンタジーは登場人物の住む世界、生態系から言語や文化までひとつの世界を物語の舞台として作り上げるため、他の登場人物により物語が広がり、シリーズ化することが多い。ル・グィンも例に漏れず「闇の左手」も「ハイニッシュ・ユニヴァース」シリーズの1本。「ゲド戦記」に手をつけるのは無謀だし、これ1冊に留めておこうと思うが・・・さて「闇の左手」にはびっくりした。

最初のあらすじにも書いたが、舞台となるゲセンの人々はなんと両性具有!今までいろいろなSFを読んだがこれは初めてだ。通常見た目は男性で、26日周期のゲセンの新月の頃に訪れる発情期にパートナーとなる相手を見つけたカップルの片方が女性化する。受胎すれば妊娠、出産する。しなければまた元の体に戻り、次の発情期には女性化するのがもう片方の方ということもありえる。まー、びっくり(笑)。

でも、決してゲロゲロ描写のドロドロした話ではない。このゲセンに降り立った人間のゲンリー・アイの、文化の違いやゲセン各国の国民性によって被る災難に始まり、中盤以降は、ゲセン人エストラーベンとの友情の物語といってもいいかもしれない。そこには性を超えた不思議な空気が支配する絶妙の趣がある。
なんと説明したらよいものか非常に難しいので、こんなひっかけ陳腐な文章でも気になっていただけたら、一読をお薦めしたい♪

タイトルの「闇の左手」は作品中の歌の一節で「光は暗闇の左手 暗闇は光の右手」とある。“闇と光”、“右と左”、“男と女”のように、対極的なものの対立とその統合といったところが、ル・グィンのあらゆる作品を通して垣間見られるテーマなんだそうだ。両性具有という生態を用いた本作はその代表作ともいえ、SF小説には栄えあるヒューゴー賞、ネビュラ賞をともに受賞している。
なんて、そんなことはよくわからんが、私は楽しく読めたので善しとする。異星人同士の友情ものとしても、逃亡劇としても、冒険小説としてもいいような、一風変わったSFファンタジーだった。

しかしながらル・グィンの世界観は結構あちこちで影響を受けているようで、日本ではまさに「ゲド戦記」を手がけた宮崎駿。萩尾望都なんてル・グィンの影響ありありとみる者もある。そういう意味でも、とっかかりやすいSFファンタジー作家なのかもしれないね。

「ジェイン・オースティンの読書会」でグリッグも言っているのだが、ル・グィンは女性。それがまたちょっと驚きでもあったが、しかしだ。両性具有の登場人物がいるこんな話をオースティンを愛読する女性に薦めるグリッグの天然なキャラクターがここにきてまた笑えた。
女性らしいたおやかさと真逆の辛辣さを併せ持ち、文章の表情にメリハリがあってノリ始めてからは飽きが来ずに一気に読めたが、ジョスリンもそうだったのだろうか。
意外なところから出逢えた面白い1冊だった。

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