「スモールトーク」 絲山 秋子2007年06月25日 14時25分33秒

「スモールトーク」 絲山 秋子
「スモールトーク」 絲山 秋子
(二玄社)

ゆうこが昔の男に呼び出されて行ってみると、そこにはオレンジ色のTVRタスカンが待っていた。男そっちのけでクルマに見入る彼女は、こうして次々とそそられるクルマで現れる本条とつい会う回数を重ねてしまう。

日本文学を読むこと自体がかなり久しぶりなのだが、女性作家に至っては一体いつ以来かってくらい読んでいない。最後は初期の宮部みゆきか鷺沢萌か・・・。
近年の文学賞受賞少女作家とかの人気の風潮と、ちらりとしか見ていないが、まるで少女漫画のような内容、今時の女の子の生態を思わせる文体、「知恵蔵」片手に読まないと意味がちんぷんかんぷんのカタカナの羅列。どれをとってもイライラしそうで食わず嫌いにしてきた部分もある。

で、なんで絲山秋子なのかというと、名前はいくつかの文学賞受賞作家であるということで見た事があった。直接手にしてみる気になったのは複数の知人による芥川賞を受賞した「沖で待つ」の評判が良かったからである。やはり知人が実際に読んだ感想ほど頼りになるものはない。
映画関係の友人の中にはとにかく本を読む人が多い。しかも早い。だから次々とお薦めの本情報が溢れて、読むのが遅い私はとても追いつかないのだが・・・。
まず、そんな情報から絲山秋子本人が少女作家ではなく自分と年齢的に近いということを知り、興味が湧いた。

なのになんで「沖で待つ」ではなくて「スモールトーク」なのか?(笑)
手元にはあるのだが「イッツ・オンリー・トーク」と並んで積読状態。「スモールトーク」は読み終えた「モープラ」を返却しに図書館に行って、書架を眺めていて見つけた。500ページを漸く読み終えて軽いものを欲していた私の目に留まったのが絲山秋子だった。読まなきゃなあと思っていた積読2冊の並びにあった「スモールトーク」。はじめて見るタイトルだった。
ぺらっとめくって目に入ったのがクルマの写真。ん?
聞いた事のない車名。もっとめくると今度はジャガーとかサーブとかアストンマーチンとか。めくるめく外車の世界。しかも一癖ある揃いが気になった。
二玄社っつーと「NAVI」だよねえ。巻末の徳大寺有恒氏との対談。そっか、連載してたんだ。知らなかったー。彼女にはこういう世界があったのか。

専門用語や固有名詞を自然に並べてストーリーに巧く溶け込ませる力量がある文章を書ける人が羨ましい。正直言ってカッコいい。
この分野については自信を持って書けるってものがあるのっていいよね。私は映画についてっていってもかなり偏ったものになるけどー。(笑)

全体でも140ページ。対談やエッセイが入っているから、短編連作の本文だけなら100ページそこそこか?幾ら読むのが遅い私でも2週間の貸し出し期間で読めるだろう。実際、あっという間に読めた。

主人公のゆうこはクルマが好きだ。しかもこだわりのあるクルマ好き。ベンツやBMWだからって、きゃーきゃー言う女の子とはワケが違う。自分が運転するからそのエンジン性能等の機能性から、スタイルは勿論だがそのクルマのもつ特徴というか面白さや雰囲気、果てはそのクルマに似合う人間像まで考えてしまう。
ゆうこの前に現れた本条は音楽プロデューサーで高級車を次々と乗り換えられるご身分。彼女の気を引くためか(十中八九そうだろう)毎回刺激的なクルマでやってくる。
TVRタスカン、ジャガーXJ8、クライスラー クロスファイア、サーブ9-3ガブリオレ、アストンマーチン ヴァンキッシュ、アルファロメオ アルファGT。
詳しくは知らないが誰でも知ってるような人気の有名車種じゃないことぐらいは私にもわかる。ちなみにアストンマーチン ヴァンキッシュは"ダイ・アナザー・デイ"でボンドカーとしても登場。
ゆうこはクルマの性能や特徴を感じつつ、隣にいる本条の存在をぼんやりと考える。クルマにこだわりを持つゆうこは1台1台のクルマに対し良いところも悪いところもはっきりと口にする。それは彼女自身の生き方についても同じなのだと思う。言いたいことははっきり言うし、嫌なものは嫌なのだ。本条のことは何度も会ううちに体を重ねるようになるが、それは嫌ではない。しかし、忙しい日々を送る音楽プロデューサーである不定休の彼がある日、暇になると昔の女のもとへ突然やってくる。そういう関係が嫌なのだ。巧くいかない、続かないとわかっている。
びしばし言いたいことを言うゆうこがふと聞かせるつもりもなく声に出てしまった言葉が「こんなんでいいわけがない」。
続いて口を出たのが「それって不安だよやっぱ」。
言いたいことが言えるゆうこを本条は面白いと思い、二人の会話は小気味良く楽しそうで実に羨ましい。私もこんなにぽんぽんと会話がはずんだらなあと思ったのだが、思ったことが言えるからといって、ゆうこは別に強い女なワケじゃないのだ。そっか。
やはりその不安は関係を持続させない。本条はゆうこがかねてから欲しいと思っていたアルファGTで現れた。いとも簡単にそういうことをしてのける本条にゆうこはすでに怒りも悔しさも感じない。乗ってみたアルファGTはただの“クルマトイウモノ”だった。今のゆうこはアルファGTを必要としていないのだと言う。本条のこともきっと同じことなんだろう。
この短編連作は大体全編に渡ってゆうこと本条が登場していながらラブストーリーとはちょっと趣が違う。ゆうこのこれからを匂わせて物語は終る。ただの失恋話でもないなと思うのにもかかわらず読了後にはなんだか苦いものが残る。ちょっと不思議な感じ。


クルマ。私はペーパードライバーもいいとこだけど、運転手(?)のおかげで一般人にしては面白いクルマに乗ってきたと思う。正確な車種はうろ覚えだが、日産パルサーGTI-R、ランチャ デルタインテグラーレ、スバル レガシーツーリングワゴン、アルファロメオ155V6、シボレーアストロ、BMW840Ci。
自分じゃ運転しないからいい加減だが、デルタは最高に面白いクルマだったし、アルファが面白味と快適さでは一番だった。レガシーはたった3ヶ月。いいクルマだったけど確かに面白味はなかった。知らないながらもキャラクターがはっきりしてるイタリアのクルマの遊び加減がいいなあと思ってしまう。街でアルファやフィアットなんかが走ってるとやっぱり目で追ってるもんね。デルタは最近見てないなあ。
生活に必要なものじゃない部分で見たクルマ。キャラクターのあるクルマというものの世界観が好きだ。
クルマとかそういう世界観のあるものが好きだという人にも魅力を感じる。それって私が好きな“永遠の少年性”を体現してるからだと思うんだよねえ。だはは。

一体なんについて書こうとしたんだかわからない内容になっちゃった。申し訳ないっ!